ごあいさつ


研究室の二つの柱、「出芽酵母」と「生体膜脂質」

私たちの研究室では、生命の基本単位である細胞がどのようにして様々な機能を発揮できるのか?を知ることを目標としています。ただ、「細胞を研究しよう!」とだけ言っても研究対象は非常に膨大で何からやってよいのかわかりません。私たちは、この大きな目標に対して「出芽酵母」「生体膜脂質」に注目し、これらを柱として研究テーマを設定しています。

 出芽酵母と生体膜脂質。あんまり関係が深くなさそうな二つが、なんで研究室の柱になるのでしょうか?まず生体膜脂質を考えてみましょう。細胞は、ほとんどが水分でできているので、細胞がその「かたち」を維持するためには膜構造が必須となります。生体膜の基本骨格は脂質二重層です。脂質二重層は、リポソームのように試験管内で人工的に作ることが可能です。この人工膜は一種類の膜脂質があれば作ることができます。ところが、細胞を形づくる生体膜脂質には、実に数万種類の分子種が存在するといわれています。なぜこんなに種類が必要なのか?、その解明は現代の生命科学の大きな課題です。一方で、脂質は水に溶けにくいという性質故に生化学的に扱いにくいとも言われており、研究対象としては大変手強い相手です。

そこで登場するのが出芽酵母を用いた分子遺伝学です。膨大な種類の脂質分子が作り出す複雑な生体膜の環境は、遺伝情報をもとに作られています。出芽酵母は、その遺伝情報を解析、操作していく上で非常に有用なモデル生物の一つです。私(谷)は、学部4年生の時からずっと脂質の研究をしていますが、ポスドク時代に初めて酵母の分子遺伝学に触れ、そのパワーに魅了されました。わたしたちは、生体膜脂質という手強い相手に対して、酵母遺伝学を武器に、「膜脂質の構造多様性の生理学的意義」、「膜脂質の新たな機能」、「膜脂質の代謝制御機構」にアプローチしています。  また出芽酵母は、人類がまだ微生物という存在を知る以前から様々な発酵食品に利用されてきており、現在でも発酵産業の花形微生物として活躍している、という側面も持っています。そのため、酵母で基礎研究をやっていると、このような応用的展開ともリンクすることが少なからずあり、そういった視点も大事していきたいと思います。


研究は面白い!

「研究は面白い!」をぜひ実感してほしいです。私(谷)が大学院生時代に恩師からよく言われた言葉で、「今顕微鏡で覗いている世界が、世界でまだ誰も見つけていない自分だけが知っている現象だ、と思うだけでワクワクするよね」があります。研究は、まだ誰も明らかにしていないことを追求するものです。そう言ってしまうと、えらくスケールの大きな話のように聞こえますが、小さな発見も含めれば、研究室には「世界で初めて」を見つけるチャンスが実はたくさんあります。どんな小さなことでもいいです。ぜひ自分の力で「世界で初めて」を見つけてみてください。小さな発見が、とんでもなく大きな発見に繋がることもある...かもしれません。一方で、研究は大変な時間と労力を必要とします。たった一行で書けるような事象を証明するために、あらゆる方向からの膨大な検証実験が必要とされます。しかしながら、この苦労も「研究の面白さ」と言えると思います。
「将来、研究で身を立てていきたい」という人、「将来ずっと研究するかはさておき、研究を通して自分を成長させたい」という人、「学生時代に何かを成し遂げたい」という人、ぜひ研究室に話を聞きにきてみてください。「なんとなく面白そう」も大歓迎です。